藤田昌志 比較文化のブログ

和・洋・中を比較文化学的に考察する。トピックは音楽、映画、本の紹介、歴史、文学、評論、研究等 多岐にわたる。

他文化の考え方の筋道をまず尊重し、理解する  宇佐美文理(2014.6)

  


宇佐美文理(2014.6)『中国絵画入門』岩波書店 岩波新書1490
 本書は作者の伝記や社会背景、真筆か摸本かなどの考察を捨象して「気」と「形」の記述に多くのページを割いて「造形作品」としての中国絵画史を書くことを目的としている(はじめに ⅲ‐ⅳ)。「造形作品」として説明したいと言うのは、西洋や日本の絵画との違いを明らかにしたいからであるが、西洋や日本の概念を使って比較思想的に考えるという手法はとらない(同 ⅳ)。「あくまで中国で使われた概念によって説明すること」を心がけ、そもそも本書の「気と形」の話は日本の読者には「すーっと」入ってこないかもしれないが、むしろその「わかりにくさ」の自覚がその「考え方の核心の部分」なのである、そういう部分は「その考え方の外部にある概念でむりやり説明するよりも、そのままにしておいた方がよいのでは、というのが本書のスタンスである」(同ⅳ)と宇佐美氏は言う。これは非常に重要な考え方で「比較文化」の前提、基本を教えてくれている。自分の文化で他文化を裁断するのではなく他文化の考え方の道筋を先ず尊重し、それを理解しないと比較文化は成立しないのである。南斉謝赫(しゃかく)の「画の六法」の一つ「気韻生動」(東洋画の非常に重要な概念で岡倉天心も言及している)をとっても解釈が一定していないことを指摘する(p.43)ことから始め、中国絵画に沿って説明していく宇佐美氏は非常に柔軟な頭脳の持ち主であることが窺える。他文化の尊重が自文化の尊重に通じることを目指したい。自文化を相対化して、尊重したい。


                                                                                                2022.1.17          月

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