藤田昌志 比較文化のブログ

和・洋・中を比較文化学的に考察する。トピックは音楽、映画、本の紹介、歴史、文学、評論、研究等 多岐にわたる。

政治的施策によって蝕まれる庶民の住む町    藤村三郎(2014.3)


 藤村三郎(2014.3)『大地震時女川町で津波に遭遇した中国人実習生 なぜ 162 人全員が助かったか』社会評論社
    2011 年 3 月 11 日の東北大震災で女 川町   おながわちょう (サンマ、銀ザケの水揚げ高では全国三本の指に入る。)では町の総人口 10,014 人のうち(行方不明者を加えると)831 名が死亡した。(総人口の 8.3%に当たる。)生存確認は 9,000名強であるが、現在、同町に在住しているのは 6,000 名台に減少していると言われている(p.61)。
   女川町では外国人技能実習制度を活用し、震災時、162 人の中国人実習生が水産関係の 19 の企業で実習を受けていた。19 の企業の一つである佐藤水産の佐藤充専務(当時 55 歳)は中国人実習生を上の神社に誘導し、工場の者が全員、無事、避難したか確かめに再び工場に行き、津波に呑まれて亡くなった(pp.22-23)。研修生の一人、韓麗敏さんは買ったばかりのビ
デオカメラを持って避難し、渦巻く濁流の中で工場の屋根に必死にすがっている佐藤充さんが波間に消えるのをカメラに収めており(同)、中国の報道機関は韓麗敏さんの撮影ビデオとともに、一斉にトップニュースとして中国全土に報道し、韓国でもそれは報道された。そののち、日本の報道機関の知るところとなり、インターネット、新聞、テレビ等で大きく取り上げられた(p.24)。

    中国人実習生 162 人全員が助かったのは、前述の佐藤充さんのような人たちが中国人実習生を避難場所に迅速かつ的確に誘導したからであった。中国人実習生の中には再び女川に帰って実習を続けている人もいて、その一人、王聡さんは次のように述べている。「二月から会社の工場に戻って働いています。知っている人たちにまた会うことができてうれしいで
す。お互いに「元気だった?」「すべて順調だった?」などと聞きあっています。どの顔にも相手を心配している表情があり、気持ちが温かくなります。今やもう国境などありません。私たちは大自然の中では小さな生き物に過ぎず、未来に対してどれほどの能力と力量を発揮できるか分かりませんが、私たちは互いに励まし合い相互の能力を高めて未知のものに挑戦していく力があると信じています。/みんなで一致協力して美しい女川に復興させようではありませんか。/がんばれ女川!がんばれ、わたしの第二の故郷!」(p.44)。もう一人の帰ってきて実習をつづけている張如意さんは震災時の避難所生活では家族を亡くした人がそれまでと変わらず世話してくれたことが再度女川に帰ってくる大きな動機になったと書いていて、女川町民と実習生の心のつながりが深かったことを窺い知ることができる(pp.41-42)と記している。
     東北大震災の政治的責任は1954年の中曽根康弘氏による原子力の平和利用法案に求められる。その年、アメリカによるビキニ環礁での原爆実験によって、日本人船員が被曝している。中曽根康弘氏による当該法案の提出と国会承認は、アメリカの原子力発電に遅れまいという政府与党の焦りの表れであった。中曽根氏は近年、100歳を超える長寿で人生を終えたが、政治家の責任の重さを記憶しておかなければならない。
 市場の「自由」の名のもとに、京都にも海外資本が入ってきて、欧米資本が高級ホテル、高級レストランを次々と建設しつつある。すでに高倉健の定宿、勝新のブランデー茶漬けで有名な「ホテルフジタ」は、「リッツカールトン京都」に買収され、富裕層ゲス外国人が金の力で鴨川、大文字などの京都の景観をむさぼっている。一泊一人5万円~10万円ぐらいの部屋に普通に泊まっている。国内外の富裕層による不動産投資がその背景にある。近年、海外から日本への不動産投資総額は日本の海外不動産投資総額の10倍である。海外投資家による日本不動産への投資は2020年、前年より24%増え、なかでもアメリカからの投資は123%増を記録している。それは政府が不動産市場の活性化の名のもとに海外資本による国内不動産の取得を推進してきたこと、そのための法律を作り、通したことが(自由市場の力とともに)原因である。東北大震災、大店法の政治責任と同じことが京都で行われている。将来、京都が国内外超富裕層の魔の巣窟になり果てることを許すわけにはいかない。京都に住んでいない、東京などの医者・弁護士などが資産目的で購入している高級分譲マンションなどには、新たな税を設けることを京都市では決定している。(2022.1.17 京都新聞 夕刊「現代のことば」森千香子氏 による「都市空間を変える「市場」」 参照。)



                         2022.1.18  火

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