SF 体の変異を描く 恐怖
(1986)『ザ・フライ』
SF 体の変異を描く 恐怖
(1986)『ザ・フライ』はハエと融合した科学者の恐怖の悲劇。SF映画(1958)『蠅男の恐怖』をリメークしたホラー。蠅に変異していく姿を描く。喫茶店でコーヒーにシュガーポットの砂糖を全部入れる異様な所作にリアリティーがある。最後は融合に失敗してどろどろの化け物になり、殺してくれと銃を自分に向ける。
おぞましいもの、エイリアンに対する恐怖のようなものがある。それはそうだろう。先住民インディアンをだまして、肥沃な土地を取り上げ、バッファローを食い尽くし、不安にさいなまれ、銃を身近に置かないと不安で眠れない白人は。人をだまし、陥れた者は、一生、おびえて暮らすことになる。社会でそうしたことは結構ある。騙されて陥れられた者は騙して陥れた者よりも幸いである。おびえ、罪の意識にさいなまれることはないから。
東野圭吾の『変身』は自分を殺した犯人の脳を移植されて、徐々にその犯人に脳を占拠されていく物語であるが、最後に主人公は無意識の世界に生きることを選び、安らかな死を迎える。東洋的な安らぎで物語は終わる。恐怖、絶望で終わる『ザ・フライ』とは違う。洋の東西の死生観の違いによるのであろうか。
2022.10. 14 金曜日