藤田昌志 比較文化のブログ

和・洋・中を比較文化学的に考察する。トピックは音楽、映画、本の紹介、歴史、文学、評論、研究等 多岐にわたる。

 中島岳志(2023)『秋葉原事件を忘れない』かもがわ出版 2023.12.20


   中島岳志(2023)『秋葉原事件を忘れない』かもがわ出版
 2008年6月の加藤智大(ともはる)秋葉原無差別殺傷事件を、新自由主義(市場の「見えざる手」による資源配分が何よりも効率的であると主張する主義。小さな政府と自由競争を重んじる)の蔓延した社会で、自己の苦しみの原因が見えずらい中、社会構造の中で強いられた苦境も自らの意志で選択してきた結果であるかのように思わされた結果、起こった事件だと中島氏は考える(p.2)。
 この無差別殺傷事件が明確な標的を定めると、テロの時代がやって来るのではないか(p.2)。1920年代から30年代にかけて、安田財閥のトップ安田善次郎が刺殺され、その一か月後に時の首相、原敬が暗殺される。
 中島岳志氏が恐れるのはテロの連鎖である。
 かつてテロの連鎖は治安維持権力の肥大化につながり、自由な言論空間が失われていった(p.3)。


    ノート
 加藤智大は自分が能力が高いという意識があり、安倍晋三銃撃事件の山上徹也もそうだ。新自由主義が蔓延する日本社会で、自分は新自由主義の犠牲者ではないと考えているところが二人には共通してある。プライドが高い。では、なぜ犯罪を起こしたのか。「孤独」だったのである。人とのつながりも社会での位置も希薄である。ともに非正規雇用者である。その生命の懊悩の叫びが自分に向かえば自殺、外へ向かえば無差別殺人になる。生きる上での「生きがい」がなく、他者と自分の調和のとれた関係を築けなかったことが大きな原因としてある。
 非正規雇用四割の現在の日本社会がいかに無慈悲な社会であるかをまず認識したい。
 アメリカ社会の真似をすることによって、こうした社会が現出したのだと思う。アメリカのセブンイレブンの駐車場は、夜になると、ホームレスの寝場所となる。そんな国がいいはずがない。ごく一部の富裕層は彼らホームレスに対して、意志薄弱、努力が語りない結果だと極めて冷淡である。日本の富裕層も同じ考えだろう。考えは伝播する。それが恐ろしい。


                       2023.12.20   水曜日

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