藤田昌志 比較文化のブログ

和・洋・中を比較文化学的に考察する。トピックは音楽、映画、本の紹介、歴史、文学、評論、研究等 多岐にわたる。

1962 「秋刀魚の味」 小津安二郎最終作品   2024.1.8

     1962 「秋刀魚の味」 小津安二郎最終作品 
 昨年の12月26日水曜日のNHKBSで午後1時~2時55分に放送していた。笠智衆、岩下志麻共演。
 妻に先立たれた平山(笠智衆)の娘、路子(岩下志麻)は兄夫婦や弟、周囲の気遣いや世話でようやく嫁ぐ日を迎える。ユーモアをちりばめながらも老いと孤独、人生の無常を描く傑作。小津は本作品公開の翌年、60歳の誕生日にこの世を去った。(NHKの解説による)


   ノート
 戦争に行った平山の同窓生も中年になり、みんな会社重役などになり、同窓会を開き、恩師(東野栄次郎。教師を退職後、娘を嫁に行きそびらせて、二人で中華料理店をやっている。)を招いて酒宴を張り、愉快に暮らしているが、平山は娘の路子を嫁がせることが気にかかっている。しかし、路子が嫁ぐと平山は一人になり、生活に不自由することになる。路子もそのことを気にかけている。
 「前の戦争で日本が勝ってたら、今頃ニューヨークですよ。ニューヨーク。青い目の奴らが髷(まげ)結って、三味線、弾いてたんだろうなあ。ざまあ、見やがれってんだ!」たまたま知り合った元海軍軍人で現自動車修理工場主(加藤大介)が言う。戦争について、一般人はそんな感覚だったのだろう。元海軍艦長の平山は、「負けてよかったんじゃないですか」と応える。独り言のように言う笠智衆の自然な演技が光る。
 ゴルフ道具、ハンドバック、冷蔵庫といった平山の小供たちの物欲中心の生活が描かれる。
 平山が仲間と料理屋で酒を飲むシーンが多い。「秋刀魚の味」という映画タイトルは映画公開が秋刀魚を焼く秋だったからつけただけだと小津はそっけなく言ったそうである。
 路子を嫁がせた後、バーでウイスキーを飲む平山。家に帰り、軍艦マーチを口ずさむ。「独りぼっちか」とつぶやいて寝てしまう。ラストシーンは平山の一人たたずむ姿で終わる。
 時代の変化の中で、孤独な老後を迎えた男の姿が描かれている。世は高度経済成長期。物欲満開の時代。老人は孤独の中で、一人の生活をかみしめる。「秋刀魚の味」というタイトルはそうした男の苦い生活を象徴しているのではないだろうか。



                        2024.1.8     月曜日

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