林静一さんのこと
林静一 画
林静一さんのこと
2023.1.23 京都新聞 夕刊 現代のことば 黒川創 「林誠一と長い「戦後」」
黒川創 「林誠一と長い「戦後」」は、作家、黒川創氏の友人であるイラストレーター、マンガ家、林静一氏のことについて述べている。黒川氏と林氏は飲み仲間である。
林静一氏は1945年、満州生まれ。1歳の時に父親が死去。姉も5歳で早世。母モモ子さんは、2歳の息子、静一をおぶって、日本に引き上げた。以来、ずっと母と息子の二人の暮しが続き、林さんが結婚後も母は同居した。
戦後日本の出発点には、このようなシングルマザー世帯が無数にあった。林さんは家計を支え、17歳で、草創期のアニメーターとして働き始める。雑誌「ガロ」のマンガ家デビューは22歳。著名な『赤色エレジー』は20代半ばの作。初期から作品には、深い翳がよぎる。人の心に残る戦争の傷跡。
林さんの作品に漂う「敗戦後」日本の不穏な空気、作品にはその時代を生きた者の痛みがうずいている。
喜寿になった林静一さんのブログには、ロシアによるウクライナ侵攻戦に反対する言葉が並ぶ。戦争がなければ、両親、姉がいる場所で育つことができた—。その悲しみが、この人の「戦後」をつらぬき、現在まで続く。黒川氏はそう述べてこの文章を終わっている。
ノート
戦争は人が死ぬだけでなく、死んだ人によってさまざまな影響をあとに残す。日本も78年まえの戦後、男がたくさん死に、女が余っていた。好きでもない相手と結婚しなければ、仕事もないので、生きていけなかった。勢い、自分の子供には好きな生き方をさせてやりたいと甘やかして育て、自分勝手な、自己主張だけが強い子供もたくさん育ってきたことだろう。アメリカの「自由」を「好き勝手」と勘違いした日本がそれに拍車をかけた。
戦争はすべてを劣化させる。それは、人間の生命自体が持っている負の側面のなせる業なのであろうか。自らの生命をコントロールするすべを持つように努力すべきだと思う。読書もその一つの修行だ。マスコミの隠された拝金主義に騙されてはいけない。
2023.1.31 火曜日