米 (1958) めまい アルフレッド・ヒッチコック監督
米 (1958) めまい アルフレッド・ヒッチコック監督
2023.3.15 BS3 pm:1:00-3:09
ヒッチコック監督の最高傑作ともされるサスペンス・ミステリー。
過去の自分そっくりの亡霊にとらわれ、おののく美女をめぐる、謎めいたロマンスと犯罪を鮮やかな色彩で描く。
あらすじ
友人を犯罪現場で見殺しにしたことから高所恐怖症になったジョン(ジェームズ・スチュアート)は警察を退職し、旧友から妻マデリンの尾行を依頼される。マデリンは過去にとらわれ、先祖の自分そっくりの亡霊にとりつかれていると語り、発作的に海に身を投げてしまう。それをジョンが助け、二人は恋に落ちるが、マデリンはやがて教会のてっぺんから飛び降り自殺をして死んでしまう。高所恐怖症になっていたジョンはマデリンを助けられなかったことに自責の念を持ち、さいなまれる。
ある日、失意のジョンの目の前にマデリンそっくりの女性が現れる。ジョンと親密になるが、マデリンそっくりな女は自分はあなたにとってマデリンの代わりにすぎないとジョンをなじる。ジョンは女をマデリンそっくりの髪型、服装にして、女に「愛している」と言う。女をマデリンの死んだ教会へ連れて行き、女がマデリンに成りすましてマデリンを殺したことを白状させる。影がよぎり、女は恐怖を感じて、教会のてっぺんから飛び降り自殺する。友人が高所恐怖症のジョンを利用して、マデリンをマデリンそっくりの女を利用して自殺に追い込んだというのが真相だった。
ノート
めまいのカメラワークの映像が新鮮。ヒッチコックはトリックが好きで、色彩感覚も優れている。ジェームズ・スチュアートのメリハリのある演技が光る。見る者を息もつかぬストーリー展開で引っ張っていくのはさすがヒッチコックである。崖から落ちる姿を遠くから撮るのはヒッチコックに始まるのだろうか。
内容が女性差別と批判されたようだ。以下のウィキペディア閲覧を参照。
参考知識
ウイキペディア閲覧
評価
発表当時はヒッチコックの他の作品と同様、その女性蔑視のイデオロギーが批判されていた。徐々に評価を高め、近年ではヒッチコック作品の中でもトップクラスの傑作との評価を得ている。2012年には英国映画協会が発表した『世界の批評家が選ぶ偉大な映画50選』の第1位に選ばれた。しかしヒッチコックはこの作品を「失敗作」と語っている。当初ヒロイン役にと構想していたヴェラ・マイルズが妊娠のため降板し、キム・ノヴァクを起用したが、監督はノヴァクのキャラクターや態度(演出面に関する口出し)に非常に不満を感じていたことが、ネガティブな評価につながっている。
ヒッチコックはヒロインの女性像を、ノヴァクのような魅惑的なものではなく、清楚で健全な女性に求めていたようである。泳げない彼女をサンフランシスコ湾に飛び込ませたり、彼女が大嫌いであったグレー色を主要な衣装に使用したりとその仕打ちは苛烈なものだった。しかし「演じることを強要される」といった状態はヒロイン像につながるものがあり、それがまた彼女の魅力を高めている。
レストランでマデリンとスコティが初めて出会うシーンや、曲がりくねったサンフランシスコの道のりを写すカメラワークは評価が高い。
床が落ちるような「めまいショット」(一般にはドリーズーム(英語版)と呼ばれる)は有名で、この作品以後、数え切れないほどの映画やCM、テレビドラマで引用されるようになった。ズームレンズを用い、ズームアウトしながらカメラを被写体へ近づけることで、被写体のサイズが変わらずに背景だけが望遠から広角に変化してゆく。鐘楼のシーンでは、ミニチュアを作成して横倒しに置き、レールに置いたズームレンズ付きカメラを移動させて撮影している。スティーヴン・スピルバーグ監督は『E.T.』の街を見下ろす崖のシーンで完璧なシンクロを実現させている。
被写体にレンズを向けたままカメラが被写体の周りを回る、陶酔感あふれる撮影法も印象的である。この撮影法は、後にブライアン・デ・パルマ監督が『キャリー』『フューリー』『愛のメモリー』『ボディ・ダブル』で使用している。
タイトル映像の刻々と変化する光のパターンを製作したのは「CGの父」と呼ばれる実験映像作家のジョン・ホイットニー・シニアである。『2001年宇宙の旅』の10年も前の作品であるが、映画で見られる螺旋状の映像を連続して露光させるため、撮影手順をアナログ・コンピュータでプログラムした初期のモーション・コントロール・カメラが使われている。
この映画のフィルムは保存状態の悪さのため、非常に傷み色あせていた。これを危惧したジェームズ・C・カッツ、ロバート・A・ハリスらの手によってネガは2年かけて修復され、1996年に公開された。