漱石の『草枕』の一節から思うこと
漱石の『草枕』
漱石の『草枕』に次のような一節がある。
忽ちシェリーの雲雀の詩を思い出して、口のうちで覚えた所だけ暗誦してみたが、覚
えている所は二三句しかなかった。その二三句の中にこんなのがある。
We look before and after
And pine for what is not :
Our sincerest laughter
With some pain is fraught:
Our sweetest songs are thouse that tell of saddest thought.
「前を見ては、後えを見ては、物欲、あこがるるかなわれ。腹からの、笑いといえど、苦しみの、そこにあるべし。うつくしき、極みの歌に、悲しさの極みの想籠るとぞ知れ」
漱石は、笑いと苦しみは、悲しさと美しさは表裏一体のものであるという。「詩人は常の人よりも苦労性で、凡骨の倍以上に神経が鋭敏なのかも知れん。超俗の喜びもあろうが、無量の悲しみも多かろう。そんならば詩人になるのも考え物だ。」と、このあとを続けているが、元来が詩人気質の漱石は、詩や文章と無縁ではいられなかった。以前にも触れたが、遺作の『明暗』を執筆するとき、午前中に『明暗』を執筆し、午後は漢詩を書いて、精神のバランスをとったという。漱石にとっての自然は、王維や陶淵明の詩から連想される、自然と人が和合するような「麗しい調和のとれた東洋的、桃源郷的自然」であった。対立・闘争でない、共同体志向の自然観である。漱石は、イギリスのロマン主義の自然観にそれと同種のものを見出し、上記のような文章を書いたのではないかと思う。イギリスロマン主義は、産業革命による都市の喧騒への嫌悪が基礎にある。イギリスロマン主義詩人は自然の残る風景を愛し、田舎に移り住んでいる。
参考
イギリスのロマン主義運動は圧倒的に詩の
運動であった。以下の六人の大詩人によって代表されている。
William Blake (1757-1827)
William Wordsworth (1770-1850)
Samuel Taylor Coleridge (1772-1834)
George Gordon Byron (1788-1824)
Percy Bysshe Shelley (1792-1822)
John Keats (1795-1821) 「Wikipedia 閲覧 」
2022.2.6 日