藤田昌志 比較文化のブログ

和・洋・中を比較文化学的に考察する。トピックは音楽、映画、本の紹介、歴史、文学、評論、研究等 多岐にわたる。

  恥  はじ

      


       
 アメリカの社会人類学者ルース・ベネディクト『菊と刀』西洋は「罪の文化」
であり、日本は「恥の文化」である
と規定した(と日本人はとった)ことから有名に
なった認識である。ベネディクトは内面的で絶対的な倫理基準(キリスト教)である「罪」を基本とする文化が、外的な、人の目などを中心とする「恥」を基本とする文化より上だなどとはいっておらず、あくまで「文化の型」として「罪」と「恥」について言及したの
であるが、1945 年の敗戦後の日本で『菊と刀』が出版されたこともあり、日本人は「罪
の文化」より「恥の文化」の方が劣るという取り方をした
。しかし、西洋人にも恥の
意識はあるし、日本人にも内的な道徳律、たとえば「誠実さ」「嘘をつかない」などもある。もっとも日本人が恥を重視するのは事実であり、とりわけ封建時代の武士にとっては人前で恥をかくことは死に価することであった現在でも日本人の中には外国語学習の会話練
習などの際、間違えることを極度に恥ずかしいと感じる者がいるが、それも恥を重んじる伝統の現れであろう


 ノート
 ベネディクトの日本文化研究は、日本が戦争に敗北してからの対日戦後処理の一環として、アメリカで戦争中から行われた国家プロジェクトのひとつであった。1940年代、アメリカは世界中の主要な文化の研究をしていたが、いつしかそれがなくなっていったのは、米ソ冷戦によって、ソフトパワーよりハードパワーを重視するようになったからであろうか。
     ルース・ベネディクトはLGBTQ。医師と結婚したが、離婚ののち、学問上の弟子のミードがパートナーとなった。60歳ぐらいで早世した。黒人より白人の方が知能が高いというのは、妄論であることを述べた実証的研究論文を書いている。もっと生きていたら、差別撤廃運動に邁進したであろう。基本的な研究手法は、量的な実証研究ではなく、質的な対面研究を基礎とした。日本人の基層に「天皇への忠の意識」=「返済不可能な忠の意識」があることを見抜いて、それとの関係で「義理」や「人情」などの日本文化を論述した天才学者である。ルース・ベネディクトは戦争中ということもあり、日本の土を踏むことはなかったが、比較文化学、社会人類学の名著『菊と刀』を残した。


                               
                               2022.5.21    土

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