「食」から共同体の再生を考える
佐伯啓思氏
「食」から共同体の再生を考える 京都新聞 2023.1.3 火 2023 新春座談会 京大名誉教授 現代文明論 佐伯啓思 × 京大人文研准教授 藤原辰史
佐伯 世界人口の増加と土壌の破壊によって、食糧生産が難しくなっている。すると、二
つの考えしかない。一つは、人工的に、遺伝子組み換えなどの新技術を駆使して、
新しい食品開発を進めること。もう一つは、人間も、生態系の中で他の生物と同じ
環境世界に生きているという世界観、人間観を獲得すること。
藤原 いきなり発想をひっくり返すと大混乱になる。2021年、スリランカで化学肥料
と農薬の輸入を禁止し、国策として有機農薬を導入しようとして、農民が反乱を起
こして、首相が国の「破綻」を宣言するまでになってしまった。
佐伯 人間は、誰と一緒に食べるか、どう調理するか、という文化を考える。その時、文
化的に何か超越的な、宗教的なものが重なってくるという気がする。
藤原 レヴィ=ストロースですね。食べ物と文化、宗教の関係を論じた。
佐伯 二つ目の方向は、自然の中にある霊的なものへの敬意を取り戻さないといけない。
藤原 今は自然に対する感性が後戻りできないほど弱っているように感じます。私はもっ
と、地べたの、食べ物という具体的なところから、思想をつくりたいと思っていま
す。
佐伯 日本の戦後民主主義は反共同体主義です、戦前の農村共同体をベースにした家父長
制、その頂点の天皇を抱いた体制を批判して、戦後は個人が自立して都市で働くこ
とを良しとした。都市に出てバラバラになった個人は、生きるために金を稼ぐシス
テムの奴隷になった。それが日本の近代化であり、戦後民主主義はそれを推進した
と思う。
藤原 共同体が抑圧的に働くことには警戒が必要だけれど、自治的な共同体のあり方を模
索することはできる。今、ちょっと価値観が変わってきて、自分の暮す地域の歴史
を知りたい若者とか、自分たちの地域で採れるもので新しい生活を模索する人が増
えている。移住者も巻き込んで、閉鎖的な共同体とは異なる緩いつながりが生まれ
てきています。(大意要約)
ノート
さすが、京大系学者。なかなか深い洞察をしている。エコももう古い。新しい緩いつながりの共同体に期待している。佐伯啓思氏は戦後民主主義批判で有名。本対談でも戦後民主主義の反共同体主義が人々を都市にいざない、その都市の個人は「生きるために金を稼ぐシステムの奴隷になった。それが日本の近代化であり、戦後民主主義はそれを推進したと思う。」と述べている。
新しい共同体の創出が必要だが、決定打はどこから来るのか、我々一人一人の生き方が問われている。私はまず過去の正確な認識と比較文化的な洞察が必要だと思う。グローバリズムについても功罪を問う時点に我々は立っている。
2023.1.6 金曜日