藤田昌志 比較文化のブログ

和・洋・中を比較文化学的に考察する。トピックは音楽、映画、本の紹介、歴史、文学、評論、研究等 多岐にわたる。

2023.1.17 火 京都新聞 夕刊 現代のことば 「感じる=五から互へ」広瀬浩二郎

 

  2023.1.17 火 京都新聞 夕刊 現代のことば 「感じる=五から互へ」広瀬浩二郎
    大要
 視・聴・嗅・味・触という五感の中で、現代は視覚優位の時代と言われる。健常者は「見常者」だ。視覚障害者は、それに対して「触常者」だと広瀬氏は言う。五感のうちの一つを使わないことで、人は別の生き方に出合う。広瀬氏は「無視覚流で楽しむ京風まちあるき」イベントに協力した。アイマスクをつけて聴く・嗅ぐ・触る体験を満喫する企画で、視覚以外の感覚から得られる気付きを参加者が共有するまちあるきは、「発見」の連続だった。
 視・聴・嗅・味の四つの感覚も、原初的には触覚=触角(眠っていた全身の感覚を呼び覚ます、研ぎ澄ますというニュアンスで、広瀬氏は「触角」という語を用いる。)に包含される。近代以降、便利さを追求する過程で人類は触角の力を失い、「より多く、より速く」情報が入手できる視覚のみに頼るようになった。そんな触角の本義を「見常者」たちに伝えることができるのが触常者である。五感って味気ない。これからは互いの感性の違いを交換できる「互換で楽しむ」をキーワードに活動しよう。


  ノート
 現代人の視覚から得る情報過剰について、その原因を近代以降の便利さを追求する生き方に見出しているのは深い。しかし、これは今までよく言われたことだ。
 本エッセイが優れているのは、健常者を「見常者」とし、触角の本義を「見常者」たちに伝えることができるのが触常者だとして、健常者の障害者への「同情」や「哀れみ」という垣根を取り払っていることである。立ち位置を変えれば、異なる世界が広がる。これは仏教でいう唯識論に類似している。視点、レベルの相違は異なった世界像に通じる。
 広瀬氏は国立民族学博物館准教授。専門は文化人類学。全盲の方である。
                              
                                                                                                2023.1.22  日曜日

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