藤田昌志 比較文化のブログ

和・洋・中を比較文化学的に考察する。トピックは音楽、映画、本の紹介、歴史、文学、評論、研究等 多岐にわたる。

自然 : 日本の「自然」は「おのずから」の意味。褒義。

 


     自然 : 日本の「自然」は「おのずから」の意味。褒義。
 内なる自然と外なる自然。日本人は内なる自然をおおらかに肯定していた。内なる自然は
外的に規制されるのが人間社会だ。
 自然は神が人間に与えた贈り物。人間は自然を支配し、利用すればいい。キリスト教の考えだ。
 中国では、儒教の礼教による自然支配とともに老荘の無為自然が裏では生きていた。陶淵明の田園Uターンは老荘思想の色合いが強い。中国には儒仏道の三教がある。
 政治の治がさんずい偏であるように、古来、中国では治水が政治の中心課題だった。風水害を治めるのが優れた政治家とされた。禹  う は、中国古代の伝説的な帝で、夏朝の創始者、 黄河の治水を成功させた、治水の名人である。
 日本人にとって自然は暴力的な台風と、恵みの秋の豊穣の二面性を持つ存在だった。和辻哲郎の説である。マルクス主義の環境決定論への対抗概念として和辻は「風土」を考え出した。国家主義の隆盛時期である。和辻の『古寺巡礼』をガイドブックにして、学生たちは出征前に奈良を旅して、美しい日本を再確認し、戦地に赴いた。自分が美しい伝統の日本や父母、兄弟のために命を捨てるのだと戦争に赴くことの意味を再確認した。国家は民衆ナショナリズムを利用して、国家ナショナリズムに収れんさせたのである。こうしたことを知らなければならない。保坂正康氏が言っている。
 自然は日本では「おのずから」の意味と考えられた。生成する自然。それは「する」ではなく「なる」を重んじる思想となった。四時めぐる自然。循環の中で四季の移ろいとともに生きることを良しとする日本の思想。「大自然の懐に抱かれる。」「自然と一体になる。」その時の自然は「母なる自然。」「恵みをもたらす自然」である。
 日本では自然は大陸のようにひどい災害を伴わない。しかし、それも雪国の雪の恐ろしさを知らない者のたわごとかもしれない。人は雪の多いところより自然の優しい平野に住もうとする。自然の中からより合った自然を選択する。
 どういう自然かによって自然観は変化する。また、どういう人がいたかによって、自然観も変化を受ける。しかし「自然体」という言葉があるように、日本人にとって、自然は基本的に褒義 ほうぎ = プラス評価の意味 を持つ言葉のようだ。


                       2023.3.4      土曜日

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