藤田昌志 比較文化のブログ

和・洋・中を比較文化学的に考察する。トピックは音楽、映画、本の紹介、歴史、文学、評論、研究等 多岐にわたる。

「桜の文化」 土屋和三 2023.3.30 京都新聞 夕刊 現代のことば

      

  「桜の文化」 土屋和三 2023.3.30 京都新聞 夕刊 現代のことば
     内容概要
 私達が現在、愛でている桜は、多様な栽培品種である。それらは日本の野生の桜から作り出されたものだ。日本の野生の桜として、ヤマザクラやエドヒカン(山地性で大木になる)、オオシマザクラ(桜餅の葉に使われる)、クマノザクラ(2018年に発見された)など11種が分類学的に認識されている。
 桜の野生種は変異する。その変異のなかから人の観賞用に好まれるものが選ばれ、挿し木や接ぎ木によって増やされてきた生きた文化財が桜である。京都の丸山公園や平安神宮の枝垂れ桜は元来、京都には野生がないエドヒカンの栽培品種である。染井吉野はエドヒカンとオオシマザクラの交雑により江戸時代末期に出現し、接ぎ木により大量に全国(北海道や沖縄を除く)に植えられていった。
 ヤマザクラの本来の野生の姿は京都周辺では、西京区の松尾大社の背後の常緑林や比叡山のモミ林の中に点在しているが、人が森林を伐採するにつれて、ヤマザクラは分布域を広げていった。嵐山や吉野山ではさらに人が手をくわえて植樹して桜の名所をつくってきた。ヤマザクラの美しさは白い花と赤みがかった若葉が同時に出る風情であろう。
 江戸時代初期から江戸では武家屋敷に、京都では寺や神社に多様な品種を集めて植えられた。手入れができる経済的余裕があり、広い庭が必要であるからだ。
 オオシマザクラとヤマザクラの交雑が繰り返され、御所の左近桜、遅咲きの桜として知られる仁和寺の御室有明 おもろありあけ、また平野神社の社殿の周囲には妹背 いもせ などが植えられ、大切に護られてきた。
 私は仁和寺の桜の早朝の香りと華やかさに最も京都らしい花を感じる。東中稜代氏の句がある。「花疲れされど御室を訪ふまでは」。
 江戸時代には園芸品種を作り出す熱意が最も盛んであり、現在、私たちはその恩恵を受けている。これからも花を愛でる文化の継承が望まれる。


   ノート
 土屋和三氏は元私立大学教授。植物生態学が専門。理系の先生は現在、文系の教養がない人がほとんどであるが、この先生は京都の桜の歴史を勉強されている。江戸時代の桜への熱意の恩恵を我々が受けていることを伝え、「これからも花を愛でる文化の継承が望まれる」と結ばれている。こういう歴史的に、風土的に自分の専門について語る、語れる理系の先生は現在、稀有である。拝金主義に与(くみ)して通信技術や原子力発電の研究を行うだけの理系のセンセイが多い。こうした先生こそ本来の理系の先生であろう。少なくとも軍事産業に益する研究は拒否するであろう。宇宙の平和利用の名目のもとに、軍事技術の研究にも転化しうる研究のための科研費の申請がどんどん通っている現状はぞっとするものがある。


                           2023.4.7  金曜日

×

非ログインユーザーとして返信する